Tick-borne encephalitis virus (TBEV; family Flaviviridae) はヨーロッパとアジアで医学的に最も重要なダニ由来ウイルスである. Ixodes ricinusおよびI. persulcatusマダニは,脊椎動物宿主との特異な生態的関連から,自然界におけるTBEVの主要な媒介マダニであると考えられている。 しかし,近年のマダニ類におけるTBEVの有病率調査から,Dermacentor reticulatusが自然界におけるTBEVの維持に重要な役割を担っている可能性が示唆されている. 本研究の目的は,マダニ感染実験およびD. reticulatusとI. ricinusマダニを用いたin vivo感染比較実験により,D. reticulatusのTBEVに対する媒介能力を評価することであった. その結果,マダニ1匹当たりの平均ウイルス量は2.5×105遺伝子コピー,6.4×104プラーク形成ユニットまで達した. また,感染したD. reticulatusマダニは,マウスにウイルスを感染させることができた. マウスへの感染経過は,I. ricinusのマダニ咬傷後の感染と同等であったが,ウイルスの拡散とクリアランスはやや速かった。 さらに,D. reticulatusマダニは,同一動物への共食い時にHaemaphysalis inermis nymphsへTBEVのtick-to-tick非白血病感染を行うことが可能であった. その結果,D. reticulatusはTBEVの生物学的有効な媒介者であることが明らかとなった. また,自然界におけるD. reticulatusの高いTBEV流行率に関する最近の報告と同様に,いくつかの流行地では,D. reticulatusはTBEV流行地の拡大に寄与する十分に認識されていないTBEVベクターである可能性が示唆された
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